監督: ユク・サンヒョ
出演: キム・イングォン、キム・ジョンテ、シン・ヒョンビン、パン・デハン
韓国版を鑑賞。
この映画を教えてくれた よんきびさん、ありがとうございます。
よんきびさんのこの映画のレビューはこちら
http://ameblo.jp/oniku-sanne/entry-11474971662.html
<あらすじ>
就職に悉く失敗したテシクは、生まれながらのエキゾチックな顔立ちをいかして、自らをブータン人「パンガ」と偽り椅子工場に就職する。
そこには韓国人従業員との明らかな待遇の差別のなかで、懸命に働く外国人たちの姿があった。
テシクが居候をしているカラオケボックスでは、故郷の友人である経営者ヨンチョル(キム・ジョンテ)が経営難から店を売りに出していた。
居場所がなくなることをおそれたテシクは外国人たちをお客としてつれてこようと、あの手この手で同僚たちと親しくなろうとする。
親密になったベトナム人女性チャンミは、テシクに「私は息子を韓国籍にするために韓国人と結婚しなきゃならないの」と告げる。自分が韓国人であることを告白しようとするテシクだがうまくいかない。そんな折ヨンチョルのカラオケボックスに買い手がつき・・・
<感想>
韓国が抱える外国人問題に切り込んだコメディ映画。
単に仕事のために、一番ばれそうにないという理由でブータン人のふりをするだめ男をキム・イングォンが好演。
韓国の工場にいくと実際にアジア系、イスラム系の外国人が労働の担い手になっている状況がある。そして小さい工場の多くでは人件費を最大限までおさえるため不法滞在者を使うケースも多いと聞く。もちろんそこにはお互い納得の上の関係があることは否定できないだろう。ただそこに韓国人にありがちな非常に排他的な差別意識が顔をだし、従業員が多くのストレスを感じていることは想像に難くない。
そんな状況を本作ではコミカルに表現している。例えば工場長が口汚く罵り言葉を使って威圧することに対し、テシクが手ほどきしたさらに上級の罵り言葉でやり込めるシーンは大きな声で弱いものを威圧することに対する痛烈な批判でもある。
!!!注意 これ以降ネタばれあり!!!
ラストののど自慢のシーンは地味に見えるかもしれないが最大の見せ場になっている。韓国で外国人が集められればその趣旨は「韓国を好きと言ってね」という場合が殆ど。秋夕(韓国のお盆)や旧正月の特番、のど自慢の特番などには必ずといっていいほど韓服を来た外国人(とくに白人)が登場し、大袈裟な韓国語でじぶんがいかに韓国料理が好きか、韓国文化を愛するかを表現する。はっきり言って辟易して見ることもないのだが、韓国人はこれが大好き。
劇中の同僚たちも韓国の有名な演歌「チャン・チャン・チャン」を準備していくが、結局歌うのはアルバイトリーダーの故郷の歌。ここでテシクが心から外国人を受け入れたことが表現され、韓国社会のもつ外国人への同調圧力への批判にもなっている。
いい機会なのでもっというと、韓国人がある程度韓国語を喋り韓国文化を理解する外国人に言う言葉に'한국사람 다 됐네'というフレーズがある。意味は「すっかり韓国人になったね」。つまり外国人は韓国の文化を理解し、受け入れて当然という潜在意識がそこにある。韓国で生活する以上韓国人になってはじめて対等だと認められるのだ。それを言う人たちに悪意は全くない。だが悪意がないことがこの問題の根深さだと言える。そして韓国人が本当の意味で帰化者を含め外国系韓国人を自国民として認めるのかというと・・・私の少ない経験ではそう感じたことはまだない。
テシクがチャンミをベトナム語の本名で呼ぶ場面も印象的だった。韓国人に「韓国名はないの?」と聞かれることが実際によくある。だからチャンミは韓国名を名乗っているのだ。話しはそれるけど、可笑しいのが韓国人が英会話教室にいくとぜんぜん関係の無い英語名(ナンシーとか)を自分でつけて喜んでいること・・・いろいろ根が深いね。
一応フォローとして、数年前から韓国では在住外国人家庭(多文化家庭)に対して、かなりの予算を組んで様々な補助等の優遇策をとっていて、韓国人からは「逆差別だ」との声も上がるほど。もちろん不法滞在者には関係が無いし、あくまで制度上の策であって一般的な意識の変化に繋がるものではないけどね。
異文化理解は簡単なことではなく、日本でも同様の問題はは少なからずあると思う。自分のとなりに外国人が住んでいるとしたらどう接するか、この映画はヒントを与えてくれると思う。
同じく韓国にすむ外国人として思わず硬い内容になっちゃったけど、映画はコメディとしてとても面白い。
ヒロイン役を演じるのは本作がデビューとなる韓国人女優シン・ヒョンビン。ベトナム語が上手いのかどうかはわからないけど外国人役を違和感なく演じ、とても魅力的だった。一目惚れ! あらすじで書いたテシクと結婚の話をするシーンはとても切ない名シーン。
外国人キャストもみないい演技をしていた。彼らは実際とても韓国語がうまいので途中で簡単な単語がわからないシーンはちょっと違和感があったけど。
異文化ギャップコメディのポイントをしっかり押さえてあって笑えるし、差別意識を誠実に見据えた上でつくられているので深みがある佳作。
日本でもDVDが出ているようなのでもし見かけたら気軽に見ていただきたい。
★★★★☆